沸石の累帯的な構造

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沸石の結晶の放射状集合体で、中心付近が透明になっているものがあります。この部分は柱状ではなく、薄板状の結晶の集合のように見えるので、トムソン沸石かもしれないと思っています。しかし、よく見かける石であるわりには、該当するような資料が見つからないので、そうではないのかもしれません。

最後の2つの画像は、明治24年(1891) 西 松次郎編「帝国博物館天産部金石岩石及化石標本目録」と明治29年(1896)5月 西 松次郎編「帝国博物館本邦産鉱物及岩石目録」からの引用です。「トムソナイト滾石」「トムソン滾石」として掲載されています。明治29年「帝国博物館本邦産鉱物及岩石目録」は緒言に和田維四郎の蒐集品の目録であることが書かれているので、この2つの目録の標本は別のもののようです。
最初にトムソナイトと鑑定したのは西 松次郎か和田維四郎か、他の人か、わかりません。比企忠(ひき ただす)は明治29年7月 地質学雑誌第34号で「方言蛇骨は西理学士はトムソン沸石と鑑定せられたりと雖ども頗る疑ふべし」と書いています。が、西 松次郎は鉱物の専門家というわけではないので、例えば和田維四郎等の鑑定を受け入れて整理・記載をした可能性も十分あると思います。(明治29年「帝国博物館本邦産鉱物及岩石目録」の標本は基本的に和田維四郎によって鑑定済みだったはずで、それを西 松次郎が独自に再鑑定して変更したとは考えにくいです。)

もしかしたら、この2つの目録の沸石の標本は、はっきりした柱状結晶の集合ではなく、トムソナイトと思われる結晶の方が目立っているものだったのかも。(今も標本が残っていれば確認できるかもしれません。)

ところで、地学系の本では、蛇骨石のような石の地方名を出しながら、その定義を明示していないことが多いようです。石の地方名は民俗の分野であり、定義は多元的であることが普通にあります。何を蛇骨石と呼び、何を蛇骨石と呼ばないのか、人によって差異があります。曖昧な部分もあります。何が正しく何が間違っていると単純に決められるものでもありません。そうした民俗的な事象を理解せずに、蛇骨とはこの鉱物だ、いや別の鉱物だ、と決め付けるのは、伝承の作り変えになるのではないでしょうか。