送り犬、山犬、オオカミ

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上の画像は、上田小県誌 自然篇(1963)に載っていた、上田高校所蔵のオオカミ頭骨の写真です。この実物はまだ見たことがありません。
※追記:長野市立博物館の企画展(2017年夏)で実物を見ることができました。
恐竜たちがやってくる
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/35847274

小山真夫「小県郡民譚集」(1933)にもオオカミの話があります。
送り犬と山犬と狼の区別がわかりにくいですが、ここでは「送り犬とは狼の仲間であるが残忍性をもたぬもの」としています。山犬は狼と同じなのでしょうか。


小山真夫「小県郡民譚集」 昭和8年(1933) 65頁-66頁

送り犬
 塩田に嫁にきた人が産月になつて、里方へ帰らうと舞田峠を日の暮れ方に通りかかつた。峠の半で産み腰がついて其儘そこで赤ん坊を産んでしまつた。困つて「誰れか通行人があればよい、言伝(ことづて)してやりたい。」と思ひ続けてゐても誰一人とて通らない。
 夜が段段と更けてくると一疋二疋と送り犬が寄つて来て産婦を取り巻いた。
 「どうでこんなとこで産んで困つてゐるから己(おれ)を食ふなら食つてしまつてくれろ。」
と恐し悲しで運を天にまかせてゐた。
 送り犬は何疋といふ程集つて取り巻いてはゐるが少しもはむかはない、却つて狼などのより付かぬやうに見守つてくれるやうである。其中に一二疋どこかへ抜けていつた。
 産婦の里方は峠西の仁古田(にこだ)村であつた。送り犬二疋は里方の家をかぎ当てて、主の着物をくはいて引張る。主は引かれるままに行つたら娘が初産してゐた。然かも送り犬に取りかこまれて安全に。主は一緒に頼んできた人と共に産婦をつれ帰つた。そして送り犬に
 「どうか一緒について来てくれろ。」
といつて、家へつくと赤飯をこしらへて送り犬の一群にふるまつた。(母)

送り犬とは狼の仲間であるが残忍性をもたぬものである。送り犬に会つたら言葉をかけると食ひつかない。人が転ぶと其体の上を飛び越える。其時言葉をかけると食ひつかないが、だまつてゐると食つてしまふといはれてゐる。


山犬退治
 下之郷で或日子供が山犬に追はれて逃げてきた。一人の百姓の子供だけが見えない
 「おれの子供はきつと食はれたに相違ねえ。」
と思ひ、手に布を巻きつけて山の方へ行つて探した。山宮のあたりで大きな口をあいて飛びかかる山犬に出会つた。百姓はいきなり布を巻いた手を山犬の口の中に突きこみ、噛むことも逃げることもさせずに退治して子供のかたきをとつた。


「送り犬」の話で面白いと思ったのは「送り犬に会つたら言葉をかけると食ひつかない」という部分です。話の中でも産婦が「食ふなら食つてしまつてくれろ」と言葉をかけています。もし黙っていたら食われていた、という教訓話なのかもしれません。

オオカミには縄張りに入ってきた人の後をつけて監視する習性があったそうです。そう言えば、昔、道を歩いていると迷い犬がついてくることがありました。やがて立ち止まって見送っていましたが、あれも習性なのでしょうか。

送り犬に赤飯をあげていますが、オオカミには赤飯というのが定番のようです。太郎山のつつじの乙女の話の中に、もち米を手に握って夜道を行く話がありますが、元々はオオカミに出会ったときに差し出して命を助けてもらうためのものだったのかもしれません。

「山犬退治」の話は、昼間一匹だけで人を見境なく襲っている様子から考えると、病気のオオカミをイメージした話なのかもしれません。