信濃国小県郡年表のあられ石

上野尚志「信濃国小県郡年表」(明治17年)「巻四 自寛永二年 至宝永三年」「土産」の項目中に以下の記述があります。(167ページ)

貝化石(全く石にして片面に貝の紋を有)田沢村  硝石(海野、田中 嘉永元)
あられ石(其質堅剛、雲根志) 和田 武石(下等の銅気あり)
木の葉石 野倉  焼餅石 武石  英化石 小泉

(※原書を見たところ「貝化石」の後に「田沢村」の記述がない、「焼餅石」の前後に「武石村」の記述がない、「武石(下等の銅気あり)」は正しくは「武石は下等銅気あり」等、異なる点が多くあることがわかりました。そのためこの投稿の内容は不確かになりました。2012年9月19日)

寛永二年(1625)から宝永三年(1706)は、ほぼ仙石氏上田藩の時代です。その頃の文書があるのかもしれませんが、原典についてはわかりませんでした。

あられ石は現在はアラゴナイトを指しますが、ここでは柘榴石や黄鉄鉱・ブセキのことだと思います。あられ石についてはもう一つ、以下の記述があります(50ページ)

因記和田山字  より真黒色にして光沢ある堅剛の小角石を生ず、俗あられ石と云雲根志に和銅ならんと云。又其北なる武石山字  より樺色なる下等の円形石を産す
又上田の北なる太郎山字小金沢に金色ある方形石を生ず蓋何れも銅気あり。


和田の「真黒色にして光沢ある堅剛の小角石」は柘榴石でしょう。武石の「樺色なる下等の円形石」は黄鉄鉱・ブセキの十二面体のものではないかと思います。太郎山の「金色ある方形石」は黄鉄鉱や黄銅鉱でしょうか。「小角石」「円形石」「方形石」のように、形に着目して、柘榴石とブセキを同類と考え、「あられ石」と呼んだのかもしれません。

「雲根志に和銅ならんと云」が何を指しているのかはわかりませんでした。「雲根志 三編 巻之二 自然銅 二十三」に産地として「信州和田峠」があります。ただ、これは柘榴石ではなく黄鉄鉱のような気もします。


信濃国小県郡年表「土産」には他に、武石村の焼餅石(やきもち石)の名前も見えます。緑簾石のものか褐鉄鉱のものか不明ですが、褐鉄鉱の焼餅石は武石以外でも多産するので、おそらく緑簾石入りの焼餅石ではないかと思います。江戸時代前期には既に名物として知られていたのかもしれません。

「英化石」は「魚化石」の間違いではないかと思います。(「魚」の下部の点を「大」で書くと「英」に似ています。)魚骨石・ムカデ石のことではないでしょうか。