太郎山の黄鉄鉱と切子砂

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上田創造館の企画展「上田地域の地層・化石・鉱物」は9月1日(日)まで開催するそうです。明日(最終日)は時間があるかもしれないので、できればもう一度行きたいです。

1枚目の写真は同展より、太郎山の黄鉄鉱です。1センチほどの大きなものが展示してありますが、実際に見られるのは、数ミリの砂粒大のものがほとんどです。(2枚目の写真) 白い粘土のような層にたくさん入っています。半ば塊状で、部分的に結晶らしい面や角があります。武石でも同様の小さな黄鉄鉱が入った凝灰岩が見つかります。

太郎山にはブセキもあります。(3枚目の写真)
こちらは武石のブセキと同様で、比較的硬い凝灰岩の中で、六面体等のはっきりした形をしています。

黄鉄鉱は他にも、石英脈中のものや、砂岩・泥岩中のもの等、いろいろな産状があって面白そうなのですが、残念ながら不勉強で詳しいことはよくわかりません。


江戸時代の雲根志に上田の「切子砂」があります。「信濃国上田に同種の物あれども色少し黒し 自然鉄とかや」と書かれています。これはブセキのことだという説もあるようですが、太郎山の黄鉄鉱の可能性もあるように思います。


木内石亭「雲根志 後編」(1779)
巻之一 光彩類

切子砂(きりこずな) 廿九
形(かたち)金色小細(せうさい)なり 各(おのおの)方(はう)にして他の形なし 数粒塊(かたまり)て拳の大さに及ふ 破散(われちる)時はおの/\方解(はうげ)す 予按(あんずる)に是正敷(まさしく)方金牙(はうきんげ)なるべし 自然銅(しねんとう)とするものは誤(あやまり)なり 和産多し 近江国石山寺山奥の谷川に稀にあり 先年数粒拾ひ得たり 又三河国設楽郡鳳来寺山古戸(ふると)川の上に多し 里人古戸砂(ふるとずな)ともいふ 此辺の人に乞(こひ)て五斤許(はかり)求(もとめ)得たり 又信濃国上田(うへだ)に同種の物あれとも色少し黒し 自然鉄(じねんてつ)とかや 又奥州仙台にもあり 里俗ドンバクと称ず 越中立山(たてやま)加賀白山(しらやま)駿河国府中の山中等にあり 皆同種にして少(すこし)異(こと)なり


江戸時代、武石村は上田藩領でした。木内石亭武石村のブセキを上田産と聞いていた可能性は否定はできません。が、上田の太郎山の黄鉄鉱の可能性も十分あると思います。

「形金色小細なり 各方にして他の形なし 数粒塊て拳の大さに及ぶ 破散時はおの/\方解す」という記述は、武石のブセキには当てはまらないように思います。大きなものもありますし、形にもある程度の変化があります。拳大の塊はたぶん見られません。褐鉄鉱の部分は必ずしも四角には割れません。
もしブセキだとしたら、砂粒大の小さな六面体のブセキだけを集めた標本を木内石亭は見ていたのかもしれません。

切子砂は「金色」で、上田のものは「色少し黒し」と表現しています。ブセキはかなり黒っぽく、「少し黒し」という表現には違和感があります。ただ、太郎山の黄鉄鉱が、他所のものに比べて「少し黒し」かどうかも疑問です。

鳳来寺山の切子砂は木村蒹葭堂(けんかどう)のコレクションにあります。ただ、残念ながら分解してしまっています。
http://www.mus-nh.city.osaka.jp/collection/kenkado/stones/3/3_2_1.html