貝化石の観察

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先日、川原で拾った貝化石です。(1枚目の写真) 前回と同様の石化質ノジュールで、高さ約12mm、たぶんペッカムニシキ(Delectopecten peckhami)の外側の印象。成長肋が目立つ一方、放射肋はほとんど見えず、端の方に細い線が見えるだけです。(2枚目の写真)

ペッカムニシキは別所層で化石採集していると、貝はこれしか見つからない、という場所もたくさんあって、少し特別な意味のある化石ではないかと思うのですが、資料は多くありません。

古い白黒写真は『信濃中部地質誌』(1931)と『地質学雑誌 第486号』(1934)のものです。3枚目の写真は『信濃中部地質誌』の第九十九図。4枚目以降は『地質学雑誌 第486号』のものです。(放射状の細かい線が明瞭な2つはペッカムニシキではなく「北米カリフォルニア沖産の現生種 Pecten randolphi DALL」の写真)
以下にそれぞれの記事の一部を引用しました。どの特徴に注目しているのかがわかって興味深いです。


本間不二男『信濃中部地質誌』(1931)
第四編 特殊研究
第一部 化石貝類 黒田徳米
39頁

(16) Pseudamusium (Hyalopecten?) besshoense Kuroda (n. sp.)
(第十二図版 第九十九図)
 外型によって知らるゝのみである、模式は右殻片、(甚だ薄く)僅かに脹れ、長さよりも高く、共心円的の少数の襞を有して肋状を呈し、その襞肋は周縁に近づくに従って消失する。放射脉はなく、只僅かに 前耳部に八九條の放射状糸状肋を有し、更に該部には共心円的の糸状脉を具へ両脉は相交はりて布目状を呈する。足糸開口は中庸。後耳は広いが主盤部より明瞭に区画せられない、その後端は截切状をなし、主盤部の後縁に自然に移り行く、後耳の表面は僅かに生長脉を刻する以外は殆んど滑かである。
 高さ一八・五、長さ一六・五。鉸線の長さ九・三ミリメートル。
 亜米利加北西岸産なる P. randolphi Dall は最も近似せる一種であるが、我が化石は稍長き主盤部を有することに於いて異る。
 邦産化石種に於いては Pecten tairanus Yokoyama, (1925. Jour. Coll. Sei., Tokyo Imp. Univ., 45(7), pl. 1, f. 8,9)を最も近似せる一種とする、然るに該種は小型且つ高さよりも長さの大きなこと(高一一、長一三ミメ)に於いて異る。


『地質学雑誌 第41巻 第486号』(1934)
大瀬知雄「本邦に産するPecten (Pseudamussium) peckhami DABB に就いて」
http://ci.nii.ac.jp/vol_issue/nels/AN00141768/ISS0000163996_ja.html

又本間不二男理学士の信濃中部地質誌中に,氏の別所層なる頁岩中より報告された Pecten besshoense KURODA は良く P. peckhami に類似し,該種は現生種では北米産の P. randolphi に,化石種では常磐産の P. tairanus に夫々近似なることを述べられて居るが,蓋し P. peckhami と密接に酷似するものであらう。

最後に簡単に本種の記載を揚げる。殻片 (valve) は高さと幅略々等しく,円形を呈するも,時に幾分縦又は横に長きものあり。平均,高さ 14mm,幅 14mm,hinge line の長さ 9mm で,最大なるは千葉県よりの標品に於ける高さ 23mm,幅 22mm,hinge line 11mm である。両殻片の表面には共に同心円的の起伏を有し,肋状を呈し,放射線は殆んど無く,僅かに右殻片の前耳に数條を見るのみ。されど一部の標品に於ては極めてかすか乍ら,殻片の一部にも放射線を認める事が出来る。前耳に於ては細かき同心円的生長線と,放射肋と相交って布目状を呈する。前耳は溝によりて殻片の本体と明瞭に区画されて居るが,後耳に於ては然らず。(東北帝大地質学古生物学教室)


一番下の写真は戸隠地質化石博物館に展示されていた坂城町産のペッカムニシキです。この標本は高さが約5センチありました。上の記事にもあるように普通は1~2センチ程なので、それに比べると巨大です。また、国立科学博物館にも北海道幌内層(古第三紀始新世)の4.5センチのペッカムニシキがあるそうです。年代とか環境によって、かなり顕著な変化があるのでしょうか。