大蛇の骨の謎

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江戸時代の『信濃奇勝録』『信濃奇区一覧』より、筑摩郡の蚺虵骨(ぜんじゃこつ)の図です。松代の土鑵子(どうかんす)と同様、骨の加工品のようにも見えます。
「其骨互にくみちかひて中に筋通り」という記述があるので、図では一個だけですが、もしかしたら複数個あったのかも。(発見時には繋がっていて、ここにあるのはその中の一個だけ、という話なのかもしれませんが。)
「其筋はいまだ腐りただれず所々につきたり」とあるので、ボロボロの紐のようなものが残っていたのかも。土鑵子もそうですが、小さな穴を開けて紐を通して繋いでいたようにも思えます。化石に限らず、過去に使われた骨器、祭具、見世物とかの可能性はないでしょうか…

骨の太さは約3.6~4cmで、ヘビの骨としては大きいですが、大型の哺乳類の骨ならあり得る大きさだと思います。(例えばシカ、ウマ、イヌ科等の腰椎とか)

今までのヘビの中ではティタノボア Titanoboa (暁新世)が最大と言われていて、スケール付きの写真を見ると(ウェブ検索で見ました)、骨の太さは13cm前後で、胴の太さは約1mと推定されているそうです。同じ写真にアナコンダの骨もあって、その太さは3.5cmほど。アナコンダの胴の太さは30cm以上になるそうです。信濃奇勝録に書かれた大蛇の大きさは、現生ヘビでは最大級のアナコンダ(最長はアミメニシキヘビと言われます)と同程度になるようです。

トランヴェール』2018年7月号で『信濃奇勝録』の土鑵子、蚺虵骨、一目髑髏等が紹介されていました。蚺虵骨(ぜんじゃこつ)は沸石か?という話もありましたが、珪華や沸石が「蛇骨」と呼ばれることがあったのは確かですが、骨が「蛇骨」と呼ばれなかったわけではありませんし、図を見ると、沸石の可能性は低いような気がします。

トランヴェール 2018年7月号 [特集] 大地、海、宇宙を翔る。荒俣宏妖怪探偵団~信州の夏は、ワンダー~
https://www.jreast.co.jp/railway/trainvert/

土鑵子の謎
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/36343997


信濃奇勝録 巻之1(34、37コマ目)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/765064

蚺虵骨(ぜんじやこつ)
浅間の温泉(いてゆ)の東北に御射(みさ)山てふ山あり此山の深(おく)は大石多くかさなりて一尺二尺の岩穴あまたあり実(げ)にも大虵(をろち)のすむへき様の所いと多し此所北を山にてふさき南も山ある間(あひ)なれは甚寒(ぢんかん)といへとも暖(あたゝか)なる地勢(ところ)にてむかしより大虵を見る事度々なりといふさて天明の頃なりしか御射山のおくに蚺虵の死したるありとて松本の人々も浅間辺(あたり)よりも人多く見に行けるを蚺虵は已(はや)いつしか死して骨のみ残れり其骨を原村といふ所まて取来りしもの有その形糸をくる篗(わく)の如く中に髄(ずい)あり四方に尖骨(とがるほね)あり其骨互(たがひ)にくみちかひて中に筋通り又尖骨(とがるほね)の先に小筋通り八方に小筋通りてあり其筋はいまた腐(くさ)りたゞれす所々につきたり骨の太さ一寸二三分もありそれを以(も)て考れは蚺虵のふとさ大抵(おほよそ)径(わたり)一尺もあるへしといへり


「暖なる地勢」というのも興味深いです。山の中には所々に温度・湿度が高い場所があって、積雪がそこだけ少なかったり、植生が周囲と異なり、シダやコケが青々としていたりします。冷風穴の上方には温風穴があることが多いそうですが、それと局所的な暖地との関係はどうなのでしょう…