美ヶ原の片石(へげいし)

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江戸時代の『信濃奇勝録』より、美ヶ原の片石(へげいし)の図です。安山岩の板状節理、いわゆる鉄平石(てっぺいせき)。諏訪や佐久では今も採石していて有名ですが、松本でも昔から屋根等に利用されていたようです。

鉄平石の里の石葺き屋根 地質ニュース569号
https://staff.aist.go.jp/sudo-gsj/chishitsu569/chishitsu569-3.html
https://www.gsj.jp/publications/pub/chishitsunews/news-contents.html

板状節理はマグマの流れ方と関係があるようですが、具体的な成因については、諸説あるようで、まだ確定には至っていないのかも。(または、現象・成因に複数種類あるのでしょうか。)
柱状節理はデンプンを使った実験がありますが、板状節理も類似現象を再現する実験があれば面白いですね。

佐藤景・石渡明「板状節理の形成メカニズム」(2013)
https://doi.org/10.14863/geosocabst.2013.0_212


美ヶ原の安山岩は主に角閃石複輝石安山岩で火山活動の年代は約156万年前~約132万年前(前期更新世)とのこと。(以下の論文では「塩嶺火山岩類」の「美ヶ原火山岩類」)

向井理史・三宅康幸・小坂共栄「中部日本,美ヶ原高原とその周辺地域における後期鮮新世-前期更新世の火山活動史」(2009)
https://doi.org/10.5575/geosoc.115.400
向井理史「中部日本,美ヶ原高原とその周辺地域における後期鮮新世-前期更新世の火山活動史」(2008)
https://doi.org/10.14863/geosocabst.2008.0.236.0
地質調査研究報告 Vol.58 No.1/2 (2007)
松本哲一・太田靖・星住英夫・高橋浩・西岡芳晴・三宅康幸・角田謙朗・清水正明「日本列島における年代未詳岩石のK-Ar年代測定 -地質図幅作成地域の火山岩・深成岩 (平成17年度分) -」
https://www.gsj.jp/publications/bulletin/bull2007/bull58-01.html
向井理史・小坂共栄「長野県美ヶ原高原東方から見出した安山岩溶岩のK-Ar年代」(2008)
https://doi.org/10.15080/agcjchikyukagaku.62.4_287

ちなみに諏訪の鉄平石の年代測定結果は約133万年前(前期更新世)とのこと。美ヶ原の火山活動と同時期、東御市のアケボノゾウ化石と同時期です。

地質調査所月報 Vol.49 No.5 (1998)
内海茂・中野俊・宇都浩三「20万分の1地質図幅「長野」地域の年代未詳岩石のK-Ar年代」
https://www.gsj.jp/publications/pub/bull-gsj/geppou49-05.html

諏訪市の「すわまちくらぶ」で1月末まで鉄平石の企画展を開催しているそうです。その中で年代を「およそ2400万年前」としているそうで、ニュース記事でもそのまま書かれていました。元々の出典を探してみたのですがまだ見つからず。2400万年前というと古第三紀漸新世で、グリーンタフの時代より前です…

恒例の「アケボノゾウの会」講演会は 1月19日(土)13:30~ 北御牧とのこと。
市報とうみお知らせ版 平成31年1月1日号
http://www.city.tomi.nagano.jp/category/sihou/142447.html

信濃奇勝録 巻之1(36-38コマ目)
http://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/765064

美(うつくし)か原の片石(へけいし)
美か原は山家(やまべ)のおくにて北入(きたいり)村の辺(ほとり)大(おほ)が鼻(はな)といふ山の絶頂(みね)なり此山は前に袴腰(はかまこし)といふ山ありて其後(うしろ)山なり此山の東は小縣(ちいさかた)郡西は筑摩郡にて此山を以(も)て分界(さかひ)とす其山上は平なる原也南北へ長く西へ曲りて一里半もあり西は筑摩(つかま)安曇(あつみ)二郡を望み北は埴科(はにしな)高井水内(みのち)東は小縣佐久二郡より不二(ふじ)浅間(あさま)も綿々(めん/\)と連(つらな)りて見ゆ南は諏訪を望み湖水眼下(がんか)にありさて此山の峯より半(なかば)まては寒気つよく常に霧(きり)深く寒風烈(はげ)しくして草木育(そた)ちかたくわつかに原の内は道一筋ありてみな邉白竹(くまざゝ)蕨(わらび)のみ也木は寒風に枯槁(こかう)して育(いく)せす其風霧(ふうむ)の気(き)に感(かん)してや岩壁(がんへき)みな [※耒に斤](へげ)て大なるは六七間小なるは尺に盈(みた)すみな板の如く薄(うす)く平かにて人作に片(へき)なすが如し巨大(こたい)の岩を横より見れは五六十枚或は百枚纍(るい)々として恰(あたか)も板を挽(ひき)たるか如し其岩を一枚つゝはなせは厚きものは五六分薄きものは三分に盈(みた)ず山辺(べ)の土人(さとひと)是をとり来て土庫(ぬりこめ)なとの屋根を葺(ふき)永年不朽(くちず)して瓦に勝(まさ)れり其片(へけ)石の肌(はだ)は尋常(よのつね)の如く色は淡(うす)青く黒白の班(はん)文あり至て堅(かた)き石也平直(へいちよく)に曲りなく薄くへぎ目入る事竒なり