沢山産沸石類(蛇骨石)の研究史について(再)

先日のは長すぎたので要約し、少し追加しました。

 

・保科百助が「長野県小県郡鉱物標本目録」を作成する以前、蛇骨石は帝国博物館でトムソナイトと鑑定されていました。
・当時、沸石類の名称はまだ不統一で、「沸石」も「泡沸石」「沸石」「泡石」「滾石」などバラバラに呼ばれていました。「泡石」の名称は明治25年頃、高等師範学校の西 松二郎が使っています。(保科百助の先輩、川面松衛、矢沢米三郎等の在学中です)
・神保小虎は蛇骨石をソーダ沸石の部類と考えましたが、簡単には確定できなかったようです。
・和田維四郎も「日本鉱物誌」で曹達沸石としています。ただ、沸石の研究について「唯憾むらくは沸石類に就て特に必要なる化学上の成分に於ける研究の尚未た充分ならさるを」とも書いています。
・「中沸石」の系譜があるはずですが、まだよくわかりません。
(追記:中沸石の研究について追加しました。
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/36127153

明治24年(1891) 西 松次郎編「帝国博物館天産部金石岩石及化石標本目録」
 Thomsonite トムソナイト滾石 信濃小県郡手塚村

 

明治28年(1895) 保科百助「長野県小県郡鉱物標本目録」
 光線状泡石 西塩田村前山 方名「蛇骨」

 

 ※明治19年(1886)ロイニース著 和田維四郎訳「金石学」等に「光線状泡沸石」がある。

 

明治29年(1896) 高壮吉「信濃小県郡鉱物談」地質学雑誌 第34号
 蛇骨石(トムソナイト?)、魚眼石、赤滾石

 

明治29年(1896) 比企忠「信濃小県郡鉱石産地概况」地質学雑誌 第34号
 魚眼石、方沸石、斜方沸石、蛇骨石(トムソン沸石か疑う)

 

明治31年(1898) 神保小虎「日本産沸石の種類」地質学雑誌 第52号
(要約)
 (甲)最多き標本は白色針状にして放光線状の集合体とす(中略)恐らくはソーダ沸石の部類に属するものならん或人は此鉱物をトムソン石と曰はれたり、
 (乙)諸種の小晶
  (い)菱面体を示す者
  (ろ)単斜晶系の板の如き形の者
 (丙)魚眼石(淡紅色)
 (丁)魚眼石(緑色)
 (戊)淡緑色にして通光なる薄片状の者
 (己)白色の薄片
 (庚)輝沸石の如き者
 (辛)白色にして細針状なる者

 

明治36年(1903) 瀧本鐙三校閲 保科百助蒐集「長野県地学標本」
 220 曹達沸石? 小県郡西塩田村
 222 沸石の一種 小県郡西塩田村

 

明治42年(1909) 保科百助「おもちゃ用鉱物標本説明」
 二四 沸石 (母岩 安山集塊岩 産地 小県郡西塩田村手塚)
 是等の空隙中には沸石類玉髄及び方解石を含有するなり。工学士高壮吉君の語る所によれば、少くとも八九種位の沸石ある可しとの見込みなりと云ふ。即ち曹達沸石最も多く魚眼石輝沸石、斜方沸石の類をも産するなり。
 即ち本標本は何沸石とせずして只単に沸石としたる所以なり。尚同地の人々は此曹達沸石の事を蛇骨と称ふるなり。

 

明治43年(1910) 保科百助「信州産岩石鉱物標本説明書」
 113 曹達弗石

 

大正12年(1923) 八木貞助「信濃鉱物誌」
 魚眼石、輝沸石、曹達沸石、斜方沸石、トムソン石(未確認)

 

昭和6年(1931) 本間不二男「信濃中部地質誌」
 方沸石、魚眼石、濁沸石、曹達沸石 等
 玉髄、方解石

 

昭和38年(1963) 「上田小県誌 第4巻 自然篇」
 方沸石、斜方沸石、輝沸石、曹達沸石

 

平成元年(1989) 塩野入忠雄「千曲川中流地方の岩石の産状と観察」
 灰沸石、レビン沸石、モルデン沸石、方沸石

 

平成14年(2002) 「上田市誌 自然編(1) 上田の地質と土壌」
 灰沸石、魚眼
 氷長石、石膏、方解石、めのう、玉髄