玄能石の名前の由来について

玄能石も「名称から由来が作られた」のではないかと考えています。「玄翁(玄能)に似ているから玄能石と呼ばれるようになった」と言われますが、実際には似ていません。石器の尖頭器に似ているので、尖頭器のつもりで「玄翁(玄能)」と呼んだのではないかという説もありますが、名前が示すものに何とか結び付けようとする考え方で、蛇骨石の場合と同じです。
(ところで「玄能石」「蛇骨石」の読み方は上田小県では「げんのういし」「じゃこついし」が多いです。他の地方では「げんのうせき」「じゃこつせき」もよく聞きます。)

これも根拠があるわけではありませんが、江戸時代の「和漢三才図会」「雲根志」等にある「玄石」(磁鉄鉱)が語源で、玄石→玄の石(神科)→玄能石(浦里)と変化したのではないかと考えています。
玄石は「黒い石」という意味です。磁鉄鉱と玄能石とは違いますが、黒い石で、四角錐形をしている点は似ています。

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神科の玄能石は2cm前後の小型のものが多いので玄翁に見立てることができず、「玄の石」が「玄翁(玄能)石」に読み替えられることはなかったのだろうと思います。(昭和34年「神科村誌」には「げんの石」と呼ばれることが書かれています。)
「玄の石」の呼び名が浦里に伝わり、ここで産出する玄能石が比較的大きかったため、「玄翁(玄能)石」に読み替えられたのではないかと思います。
また、「玄の石」が「玄翁(玄能)石」に読み替えられたとき、「の」の字は「能」のくずし字だったのかもしれません。そのため「玄翁」ではなく「玄能」の字が使われたのかもしれません。ちなみに下の写真は五無斎(保科百助)の短冊ですが、「玄能石の」の部分、「能」と「の」に同じ「能」の字を使っています。

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以上、話半分以下でお読み下さい。ただ、近代・現代に名称から由来が作られ、活字メディア等によって広まり、それ以前の由来や伝承を覆い隠していることが結構多いのではないかと感じています。