長野県学生科学賞作品展覧会報告

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『長野県学生科学賞作品展覧会報告』は夏休みの自由研究作品に関する冊子で、昭和39年度と40年度の報告(発行は40年12月と41年12月)に北御牧中学校地学班の作品の概要が載っていました。
(この報告書は作品そのものではないので、誤写等がある可能性はあります。県立図書館以外の図書館にはほとんど無く(学校にはあるのかもしれませんが)、市町村庁舎や教育委員会の資料室等に保管されていることがあるようです。)
39年度は主に淡水貝化石、40年度は植物化石についての研究でした。
採集した植物化石の表が載っていて、その内容は近隣の市町村誌等にも取り入れられました。資料ごとに異なる点もあるので比較表を作ってみました。(植物名と、大杭層・布引累層・瓜生坂層の中から大杭層の部分を取り出しました。)

 

『昭和40年度 長野県学生科学賞作品展覧会報告Ⅸ』(1966) 64頁 北御牧村産の植物化石(大杭層の欄)
小諸市誌 自然編』(1986) 40頁 表6 植物化石の種類と特徴 御牧が原台地と八重原台地産の植物化石 茨木宣雄氏による
望月町誌 自然編』(1994) 31頁 表13 大杭層の化石(茨木)(62頁 引用文献 茨木宣雄『小諸層群の化石について』)
『東部町誌 自然編』(1989) 88頁 表7 赤岩本郷(布下)の植物化石
冨沢恒雄『信州のゾウ化石を探る』(1981) 53頁 表Ⅲ・2 布下層から採集された植物化石(鈴木敬治先生鑑定 北御牧中学校地学クラブ 1965)
北御牧村誌 自然編』(1999) 73頁 表10 赤岩本郷(布下)の植物化石 東部町誌編纂委員会(1988)
※『北御牧村誌』の表は『東部町誌』と同じなので省略しました。

 

◎多数 ○普通 △少数 -植物名が表にない (空欄)大杭層で採集なし(別層で採集がある)

 

No. 植物名 報告 小諸 望月 東部 ゾウ
  被子植物双子葉植物          
1 古ツタウルシ
2 ヤナギ属
3 ポプラ属
4 ハンノキ
5 ヤマハンノキ
6 カバノキ属
7 ヨグソミネバリ
8 サワシバ
9 クマシデ
10 古ブナ
11 コナラ
12 古ニレ
13 クロモニレ(クロモリニレ?)
14 ウンゲリケヤキ
15 ケヤキ
16 バラ      
17 アカメガシワ
18 ツゲ
19 ウルシ
20 ツルウメモドキ
21 イタヤカエデ
22 古モミジ
23 シナノキ
24 ナラガシワ      
25 ハルニレ      
26 ニッポンニレ      
27 トネリコ      
28 オニグルミ      
29 カシワ      
30 カジカエデ      
31 カラコギカエデ      
32 アカガワカエデ      
33 バタグルミ      
34 アメ科(マメ科?)
35 ハンノキの果実
36 バタグルミの果実      
37 ミズキ
  ハス
  単子葉植物          
38 ヨシ      
  裸子植物          
39 メタセコイア      
40 スギ
41 ミズマツ
  ●シダ植物          
42 シダ
43 トクサの地下茎

小諸市誌』『望月町誌』は『報告』とほぼ同じです。なぜか「マメ科」が省かれています。
『東部町誌』は採集量が異なるものがあります。地学班とは別の採集記録を反映させたのかも。コナラ(△->○) イタヤカエデ(○->◎) 古モミジ・ハンノキの果実・ミズキ(○->△) スギ・ミズマツ(○->省略) トクサの地下茎(◎->△)

 

『信州のゾウ化石を探る』の表は、複数の層をまとめて「布下層」として、さらに比較的上位層の植物化石を省略したものになっていました。また、他の表にはない「ハス」が追加されています。学生科学賞の作品を元にして、いくつかアレンジを加えたものでしょうか。

 

上の化石の写真は、冨沢恒雄『信州のゾウ化石を探る』(1981) 49頁「図Ⅲ・11 布下層からの植物化石(北御牧中学校地学クラブ標本)」より。
1から5の順に、ハンノキ、古ブナ、アカガワカエデ、ハス、メタセコイアとなっていますが、2は古ブナ(ムカシブナ)には見えず、誤りかも。『東部町誌 自然編』では同じ標本をツルウメモドキとしていました。
また、3はエンコウカエデに似ていて、アカガワカエデが Acer akagawaensis だとすると、似ていないように見えます。

 

 

Tanai, Toshimasa. Revisions of Tertiary Acer from East Asia. (1983)
http://hdl.handle.net/2115/36723
Acer akagawaensis を Liquidambar miosinica としています。)

 

なお、これらの植物化石の表は、和名だけで、学名が書かれていません。大部分は和名から学名を調べられますが、はっきりしないものもあります。

 

「クロモニレ」はウェブで検索しても見つからず、ニレ属の化石種を調べると Ulmus kuromoriensis K. Suzuki, 1961 というのがありました。でも、これなら和名は「クロモリニレ」のはず…

 

「ニッポンニレ」と呼ばれそうなものとして
Ulmus nipponica Endo, 1968
Ulmus nipponicus K. Suzuki, 1961
Ulmus protojaponica Tanai et Onoe, 1961
がありましたが、1965年の資料で、「古」が付かないことから推理すると Ulmus nipponicus でしょうか…

 

古ツタウルシ Rhus protoambigua K. Suzuki, 1959 ?
古ブナ Fagus stuxbergi (Nathorst) Tanai ムカシブナ
古ニレ Ulmus protojaponica Tanai et Onoe, 1961 ?
クロモニレ(クロモリニレ?) Ulmus kuromoriensis K. Suzuki, 1961 ?
ウンゲリケヤキ Zelkova ungeri ニレバケヤキ
古モミジ Acer protopalmatum K. Suzuki, 1961 ?
ニッポンニレ Ulmus nipponicus K. Suzuki, 1961 ?
アカガワカエデ Acer akagawaensis K. Suzuki, 1959 ?

 

鑑定結果には学名が書いてあるはずなので、それを確認できれば良いのですが、なるべく資料に学名も載せて頂ければ助かります。

 

The database of Japanese fossil type specimens described during the 20th Century (Web Version)
https://gbank.gsj.jp/FossilType/

 

関連の以前の記事です。
https://kengaku5.hatenablog.com/entry/36100029