灰沸石 Scolecite の確認について

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平成元年頃の灰沸石 Scolecite の確認について、調べた資料は以下の2つです。

塩野入忠雄『千曲川中流地方の岩石の産状と観察』(1989)
東信史学会『千曲 第79号』(1993) 「独鈷山の蛇骨について」塩野入忠雄

塩野入忠雄氏が標本を採集、北海道大学の八木健三教授・河内晋平助教授らがX線回折・EDX分析等を行い、標本が灰沸石 Scolecite であることを確認した、というのが要旨です。
時期については「1989・1991」との記述があります。

標本は「独鈷山の西斜面の仏挟沢谷口付近、沢山ノ池に面する山腹の安山岩中のもの」(『千曲 第79号』22頁)。数は不明。写真が掲載されていて、明記はされていませんが、この標本なのかもしれません。(上の白黒写真。グラフはEDX分析結果。『千曲 第79号』24頁より)
「仏挟」は仏狭間とも書きます。沢山池堰堤下の登山道のある沢ですが、「池に面する」とあるので堰堤付近かもしれません。(それなら「堰堤付近」と書きそうなので、地名を誤解していないかちょっと不安…)

灰沸石が確認されたことは確実だと思うのですが、その他の内容については、時代小説的なものが多く(情報不足を想像で埋め、それを事実のように書いている)、誤りが多いと思います。また、蛇骨石の定義の検証や、沸石類の分布の検証がないまま、蛇骨石は1種類のみの鉱物だと決め付け、「蛇骨石は灰沸石である」と結論付けているのは、ロジカルではないと思います。


東信史学会『千曲 第79号』(1993) 「独鈷山の蛇骨について」23頁より引用

 要点だけを述べれば、Si が最も多く、Al がこれに次ぎ、Ca が少ない。すなわち化学成分は CaAl2Si3O10・3H2O のスコレス沸石(灰沸石)である。これはX線回折法によっても同じ結果であった。すなわち曹達沸石(Na2Al2Si3O10・2H2O)の成分としての Na がなく、代って Ca であって、この蛇骨石は灰沸石であることが確認できるのである。
 なおこの独鈷山の安山岩の中には、この蛇骨石ではなく、この他に径1~3mmの小白色球状鉱物が見られる。これはやはりEDX分析によると、スコレス沸石の他に、レビン沸石・モルデン沸石・方沸石なども認められることも付記しておきたい。


同25-26頁より引用

なおこの新鑑定についての岩石プレパラートやX線回折・EDX分析などの諸資料は筆者(塩野入)の手もとに保管されてあることも付記します。



国立科学博物館に中沸石 Mesolite が展示されていますが、どのように鑑定されたのかは知りません。

常設展示データベース (日本館3F南翼 日本列島の素顔 変動する日本列島 日本の鉱物)
http://www.kahaku.go.jp/exhibitions/dbpermanent/index.html
http://db.kahaku.go.jp/exh/detail?cls=col_z1_01&pkey=1760839

堀秀道著『楽しい鉱物学』(1990) 71頁には「沸石の針のような結晶をデッキグラスの線上に置き、デッキグラスをステージ上で回転させる。ソーダ沸石は水晶と同じ位置で暗くなる。中沸石は数度ずれたところで暗くなり、スコレス沸石は一八度くらいずれたところで暗くなるはずで、鑑定上の難問がこれで解決される。」とあります。
消光角について、神保小虎は「各晶の消光方位は部分に因て異なり大抵斜なる消光を見る」と書いています。(『地質学雑誌 第52号』(1898))
消光角から中沸石または灰沸石と判定されたものもあるのかも。


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